ふたり。-Triangle Love の果てに
「大丈夫だって、泰輔に任せておけば」
心配そうに中庭を見る私の背後から、明るい声が聞こえた。
振り返るとそこには天宮先生がにこにこと笑いながら、手をひらひらさせる。
「でもあれから随分時間が経ちます」
どれ、と窓の外を覗いた先生の横顔はすっかり痩せこけて痛々しいくらいだった。
そう、先生は癌に冒されている。
もう何年も前から。
私たちには胃潰瘍だ、なんて言ってたのに。
どうして言わなかった、と怒る泰輔の前で、先生はいつものように飄々と言ってのけた。
「ばぁか。死んだ恋人と同じ癌だなんて恥ずかしくて言えるかよ。どこまで仲がいいんだってひやかされるだろ」って。
ふざけるな!って泰輔はカンカンだったけれど、それは先生なりの私たちへの気遣い。
心配をかけてはいけない、園の子どもたちに不安を与えてはいけない、そんな思いから癌であることを伏せていたに違いない。
天宮先生…
小さい頃、よくつかまって遊んだ太くてたくましい腕は、私とそう変わらないほどまでに細くなっていた。
「大丈夫、大丈夫。泰輔はむやみにあいつらを責めたり叱ったりはしないさ」
「そうですが…」
しばらくふたりで廊下から彼らの様子を伺っていると、次第に笑い声が聞こえ始めた。
泰輔が「馬鹿か、おまえらは」と笑いながら、タケルとハルキの頭を小突く。
「な、言ったろ?うまく話はついたってことだよ」
天宮先生の顔は笑うと、しわくちゃだった。
「もう消灯時間なのに、ふざけあって」
私が泰輔に向けた文句を口にすると、先生は「こわいな、真琴先生は」とまた笑った。
「なぁ、真琴?」
笑いの収まった先生が、空を見上げながら私の名を呼んだ。
「はい」
「見てみろよ、泰輔を。あいつは本当に変わったよ」
私たちは再び中庭に視線を落とした。
「愛されることを知らずに苦しんでた男が、今ああやって子ども達に愛を与えてる」
そう言われて、じん、と胸が熱くなった。
確かに泰輔は、この施設の子どもたち一人一人を毎日毎日気にかけてる。
「真琴に出逢ったからだろうな。おまえに出逢ってあいつは愛すること、愛されることを知った」
首にかけたシルバーの十字架を指で撫でながら、天宮先生が穏やかに言った。