ふたり。-Triangle Love の果てに
「おまえたちふたりには本当に感謝してる。こうやってなつみ園に帰ってきて、子どもたちを見守ってくれて」
ううん、いくら感謝しても感謝しきれないのは私たちのほう。
先生があの時、「ためらうことはない。この世には、幾万幾千の愛が常に飛び交ってるんだ。その愛がたったその中のひとつでも、おまえにとっては唯一のものだろう」って、そう言ってくれなかったら、今の私たちはない。
「とんでもありません。私たちのほうこそ先生にお世話になりっぱなしで」
いやいや、と首を横に振り、先生は懐かしそうに目を細めた。
「泰輔のやつ、昔はよく礼拝をさぼってたなぁ」
「ええ、そうでしたね」
あの人は中庭のあの木に登って海を見ていた。
いつもいつも。
「理由を訊いたんだ、なぜ礼拝に出ないのかって。じゃあ、あいつは神がいたら自分はこんなところにはいない、だからそんなものはいないと思ってるからだ、って吐き捨てるように言ったんだ」
こんな私たちをよそに、相変わらず中庭ではしゃぐ3人。
何がそんなにおかしいのか、タケルなんかはお腹を抱えて笑っている。
「そんなやつが、まさか神学校を卒業して神父になるとはな。正直、俺は今でも信じられない。泰輔には悪いがな」
でも先生はとっても嬉しそう。
今や泰輔が豊浜の小さな教会の二代目神父さま。
礼拝に訪れる人は相変わらず少ないけれど、十字架の下で聖書を読み、愛を語る彼はとても堂々としていて眩しい。
低く奥行きのある声が、聞く者の心を安らかにさせる。
泰輔は服役中に圭条会を抜けた。
私と美月のために。
そして仕事も住むところもない私たちを、天宮先生がこのなつみ園の職員として雇ってくださった。
もちろん背中一面に刺青のある元極道など、子ども達に悪影響がある、と他の職員から猛反対されたことは知っている。
それをどうにか説き伏せて、天宮先生は私たちを受け入れてくださった。