ふたり。-Triangle Love の果てに
私がこの喫茶店「シトラス」でバイトを始めて半年。
もともと顔なじみだったゆり子さんが体調を崩してから、手伝うようになったのがきっかけだった。
初めてシトラスに立ち寄ったのは、2年近く前になる。
施設を出た私は、百貨店の服飾コーナーで販売員として働いていた。
本当はどうしても就きたい職業があったのだけれど、お兄ちゃんが「まずは社会がどういうものか経験しておくべきだ」と言ったので、とりあえずそこに就職した。
とにかく3年。
そう思って、陰湿な女の職場に耐えた。
ハタチを迎えてすぐに私は、ある専門学校の夜間部に通い出した。
仕事との両立はきつかったけれど、夢に向かっている、それが私を奮い立たせていた。
そんなある日、仕事を終えて専門学校の授業まで時間を持てあましていた時だった。
ブラブラと繁華街本通りを歩いていると、コーヒーの香ばしい、思わず足を止めてしまうほどのいい匂いが私を包んだ。
誘われるように私はその匂いのする方へと歩いた。
気がつくと、本通りの片隅の小さな喫茶店の窓際の席に座っていた。
窓からのぞく花があまりにも健気で、しばらく見とれていると、「タチバナっていうのよ、それ」と柔らかな声がした。
それがゆり子さんだった。
「はい、エスプレッソ」
色白でたおやかな容姿には少し不釣り合いの、意志の強そうな瞳がとても印象的な女性だった。
同じ女性なのに、なんだか照れてしまって私は思わずうつむいた。
それくらい魅力にあふれていたから。