ふたり。-Triangle Love の果てに
第2章―Falling in Love
~片桐勇作~
まだ真っ暗な午前5時。
真琴は帰ってくるなり俺のふとんをひきはがして、日曜日はあいてる?と訊いてきた。
「…んだよ、急に」
目をこすりながら見上げると、どことなく頬を染めた妹。
「泰兄がね、私とお兄ちゃんで食事に行こうって。この前はお兄ちゃん酔っぱらってベロンベロンだったでしょ」
「そうだけださぁ…」
でも何で今さら?
「いろいろ話がしたいみたいよ」
「話、ねぇ…」
俺はあの時、泰輔兄さんに言った。
『あのことは真琴に言わないでもらえませんか』
たったそれだけだったのに、やけに緊張した。
『わかってる』
その言葉にホッとしたのもあるが、彼に夢中の妹を見ているとなぜか妬けて、酒をあおった。
大切な俺の妹の心が、泰輔兄さんに向いている。
小さくて頼りなくて、俺以外真琴を守ってやれなかったのに。
その妹が今手元から飛び立ってしまいそいうで…
なつみ園でもこれと同じような嫉妬を感じたことがあった。
真琴、お兄ちゃんがそばにいるじゃないか、そんな子どものような嫉妬。
それが今になって…
よりによって泰輔兄さんが現れて、また同じ思いを俺は抱いている。
馬鹿馬鹿しいかぎりだ。
だからといって、真琴が恋をすることに反対だというのでもない。
でも、できることなら泰輔兄さんにはしてほしくなかった、というのが本音だ。
まぁ、そんなことを言っても仕方ない。
俺は兄貴だ。
妹の幸せを、思いを叶えてやりたい、とは人並みに思う。
「俺は…ちょっと無理だよ」
「どうして?何か用事?それとも仕事?」
いや、特に何もないんだけど、と思いつつ俺は頭をかいた。
何か適当な言い訳を考えながら。
「あのさ、えっと…」
そうだ、これでいこう。
俺はベッドの上であぐらをかいた。
「実は千春ちゃんと会うことになっててさ」
「あのジョアンの?」
そう、あの美容室経営者の岸本千春、小学時代の同級生。
驚いた顔の真琴だが、すぐにニヤニヤして俺の肩をつついた。
「美容室の取材終わったのにまた会うの?どうして?」
「どうしてって…まあいろいろさ」
「へぇー」
意味ありげな視線。
「何だよ」
「別に何でもありませーん」
からかうように笑っていた真琴が、ふいにとてもがっかりした顔つきになった。