ふたり。-Triangle Love の果てに
「じゃあ、仕方ないわね。泰兄に断っておく」
「なんで断るんだよ、真琴一人で行けば?」
「そっ、そんなことできないわよ!ふたりきりなんて!」
ったく、正直なやつだなぁ。
顔にもろに出てる。
泰輔兄さんと出かけたいくせに。
俺がいなくてもいいじゃないか。
むしろ俺がいない方がいいだろう?
「楽しんでくればいいよ」
「いやよ、お兄ちゃんも一緒じゃなきゃ」
「俺は俺で楽しんでくるし、真琴は真琴で楽しんでくればいい。そう言えば泰輔兄さん、どっかのクラブのオーナーなんだって?接客について教えてもらえば?俺に対する接客がなってないもんな、真琴は」
「それは…お兄ちゃんが来ないでって言ってるのにお店に来るからでしょ」
「客だよ、俺だって。じゃあ、泰輔兄さんに訊いてみろよ、おまえが間違ってるって言うよ、きっと」
ベッドから立ち上がると、俺は妹の肩を軽くポンポンとたたいた。
「でも泰輔兄さんはキケンだから、夜の10時までに帰ってくるように」
ふふっと笑うと、俺は逃げるように洗面台に向かった。
案の定、「もう!お兄ちゃんてばっ」という真琴の金切り声が背後から追ってくる。
あはは、と声に出して笑ってみたものの、この胸のうちは複雑だ。
きっとあいつの顔は真っ赤だ。
そしてあの心臓は喜びと期待と不安で、強く脈打ってるに違いない。
小さな洗面台。
真琴のウェーブした黒髪が1本、そこに落ちている。
俺は蛇口をひねってそれを流すと、冷たい水で何度も何度も顔を洗った。