ふたり。-Triangle Love の果てに
~相原泰輔~
待ち合わせの午前10時。
駅のロータリーでマコを探す。
ひっきりなしに車が行き交う。
一通り辺りを見回したところで、弾けるような声が俺を呼んだ。
「泰兄!」
振り向くと淡いピンクのマーチの助手席の窓が開いた。
「早く乗って」
後続車を気にしながら、マコは言った。
俺が車に乗り込むと同時に急発進。
「泰兄がなかなか来ないから、ロータリーを何周も回ってたのよ」と口を尖らせた。
それには答えず、俺は訊いた。
「おまえの車?」
「お兄ちゃんと共有なの。中古だけどかわいいでしょ、私が選んだの」
「勇作もこれに乗るのか」
「もちろん乗るわよ、どうして?」
俺は小さく笑って、窓の外を見た。
あいつはいつだってこの妹の見方だったな。
俺だったらこんな色の車は恥ずかしくて乗れない。
正直、助手席に乗ってる今でさえ、知り合いに見られたらどうしようかとさえ思う。
「着いたら起こしてくれ」
そう言うと、俺はシートを少し倒した。
豊浜まで高速を使っても1時間はかかるだろう。
その間、仮眠をとろうと思ってたのに…
ったく勘弁してくれよ。
「おい、おまえミラー見てんのかよ、後ろ大渋滞だぜ」
「だってここは制限速度50キロでしょ」
いつの間にか俺はシートを起こして、まくしたてていた。
「こっちのほうが近道だろ」
「道が狭いもの、対向車が来たら離合できない」
「おまえ、右折のタイミングが悪すぎる」
「もう!泰兄は黙ってて」
教習所で初めてハンドルを握った時のように、背筋をピンと伸ばし肩まで力の入ったマコは前を向いたまま言った。
「そんなに言うなら泰兄が運転して」
「やだね」
「だったら静かにして」
真剣な彼女の横顔を盗み見しながら、胸元から煙草を取りだした。
「ちょっと!ここは禁煙」
「カタいこと言うなよ。おまえの運転にヒヤヒヤして、どうにかなりそうなんだぜ」
「だめよ、絶対にだめ。嫌なら降りてもらうわよ」
怒った顔を助手席の俺に向けると、手元のハンドルがぶれる。
「わかった!わかったから、前を向いて運転してくれ」
そんな調子で車は進んでいく。
カーナビが左だと案内してても、運転に必死なマコの耳には届いていない。
しばらく経って「あれ?私間違えたかも」なんて気付く。
オロオロする姿がおもしろくて、俺はあえて何も言わなかった。
昨晩のマコとはまるで別人だった。
冷静で大人の女の雰囲気を醸し出していた彼女と、今隣で困り果てている彼女が同一人物とは思えない。