ふたり。-Triangle Love の果てに


「あとこれ、サービス。どうぞ」


そう言って差し出してくれたのは、フルーツの盛り合わせだった。


きれいにカットされたリンゴやオレンジ、私の大好きなイチゴまでのっている。


「でも…」


「いいの。残り物で作ったから」


ちらりとのぞく八重歯が艶っぽかった。


「ありがとうございます。じゃあ、いただきます」


ジャズ音楽と、食器の音だけが店内に響く。


私はカップを手にとり、コーヒーを一口すすった。


おいしい…


声にはならなかったけれど、確かにこの口はそう動いた。


次に私はウサギの形をしたリンゴをかじった。


シャリッと音を立て、それは私の口の中へ転がり込んできた。


噛めば噛むほど、皮の食感と果汁が相まって、懐かしい味がした。


施設で食べた、少しなまぬるいリンゴの味。


私はもう一口、りんごをかじった。



「あなた、この先にある専門学校に通ってるの?」


カウンターの向こうから、ゆり子さんが訊いた。


「え?」


「バッグからテキストが見えてたから」


なるほど。


「ええ、そうなんです」


< 8 / 411 >

この作品をシェア

pagetop