ふたり。-Triangle Love の果てに
「私もあそこで喫茶科を受けてから、この店を開いたの。フルーツカットを習ったけど、一番苦手な科目だったわ」と照れたように笑って、私に出してくれたフルーツを見遣った。
そんなふうには見えないくらいの、見事な出来映え。
「じゃあ、私の先輩、ということになりますね」
急に親近感がわいてきて、私はペラペラと勝手に自分のことを話していた。
けれど、ゆり子さんは嫌な顔もせずに時には驚き、時には笑って私の話を聞いてくれたのだ。
その日から私は「シトラス」の常連になった。
辺りが暗くなった頃、ゆり子さんと今夜のメニュー「すき焼き定食」を作っていると、カランコロンと陽気なドアベルが鳴った。
「いらっしゃいま…」
私の顔が曇ったのは言うまでもない。
「いい匂いだなぁ」
「もう、お兄ちゃんは来ないでっていつも言ってるじゃない」
「ひどいなぁ、俺だって客なんだから」
「だからって、毎日毎日来ないで」
見かねたゆり子さんが私たち兄妹の間に入ってくれた。
「勇作さんは真琴ちゃんのことが心配なのよね」
「いや、そういうわけではないんですが…取材で近くまできたし、ここの定食は安くておいしいから」
歯切れ悪くそう言うと、お兄ちゃんはカウンター席に腰を下ろした。