妖(あやかし)狩り・弐~右丸VSそはや丸~
 袖を掴まれて、呉羽は内心舌打ちした。
 が、烏丸も呉羽に助けを求めているのだ。
 女官はともかく、烏丸が困っているのは可哀相だと思い、呉羽は一つ頷いた。

「わかりました。何とかしてやりたいのはやまやまですが・・・・・・。問題は、それ以前のことなのです」

 とにかく右丸の傍に行かねばならない。
 だが、そのためには左大臣家の門をくぐる必要がある。

「私如きが、左大臣様の屋敷になど、そうそう上がれますまい」

 現時点では、これのほうが呉羽にとっては難問だ。
 前は正式に左大臣・頼長自身のお召しによるものだったから難なく屋敷に上がれたが、今回はそうではない。
 頼長など、この事態を知ってもいないだろう。

「多子(まさるこ)様でもいらしたら、まだ何とかなりそうですが」

 頼長の娘である多子とは、一緒に鬼退治をした仲だ。
 大貴族の娘のわりに、地下人である呉羽を気に入っている。
 多子に渡りを付けられれば、屋敷内にぐらい、入れてくれるだろう。

 だが、女官は力なく首を振った。

「多子様は、すでに後宮に入られております。左大臣家にはおられませぬ」

 知り合った当時から、多子は帝の元に入内することが決まっていた。
 すでにそれは実行されたようだ。
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