妖(あやかし)狩り・弐~右丸VSそはや丸~
 ふん、と顔を背けるそはや丸に、女官は相変わらずわなわなと震えながら、燃えるような目を向けている。
 顔の前のあこめ扇が、握りしめられているお陰で、みしみしと音を立てている。

 呉羽は項垂れつつ、はあぁ、と大きくため息をついた。

「ああ、全く。どうしましょうかね」

 全く人間というのはややこしい。
 人の家一つ訪ねるのも、相当な労力を要するのだ。

「先にも申し上げましたが、私に変化の術はありません。右丸の身は心配ですし、強引に屋敷に入る手がないわけではありませんが、そのようなことしたら、後々厄介でしょう。あまり大事(おおごと)にするのも、本意でないでしょう?」

 女官は、やっとそはや丸から目を離し、こくりと頷く。

「なら仕方ない。そはや丸」

 呉羽はそはや丸を見た。

「お前が行け。命令だ」

「はああぁぁっ?」

 顎が外れんばかりに口を開け、そはや丸がぐいっと呉羽のほうに身を乗り出す。

「何でこの俺様が、あんな小僧のために、わざわざ出張って行かないといけないんだ?」

「うるさい。お前もちょっとは烏丸を可愛いと思ってただろっ」

「誰がっ!」

 むきーっといきり立つそはや丸の袖を引き、呉羽は申し訳程度にある几帳の影に、彼を引っ張った。
 そこで、声を落とす。
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