妖(あやかし)狩り・弐~右丸VSそはや丸~
 呉羽のことを考えているうちに、余計なことまで思い出し、鬱々としてしまった右丸の頭に、不意に甲高い声が響いた。

『何をぶつぶつ考えてるんだよぅ。会いたいなら、会いに行けばいいじゃないかぁ』

「・・・・・・烏丸(からすまる)。考えに耽っているときは、もうちょっと静かに声をかけておくれよ」

 傍から見たら、右丸が一人で、ぶつぶつ見えない何かと話しているようにしか見えないだろう。
 先程の声は、右丸の頭の中に響いただけであって、外には聞こえていない。
 いきなり身の内から声が聞こえても、右丸はさほど驚いた風もなく、内からの声に答える。

「会いに行くだなんて、そんな大それた事、できるわけないだろ」

『何でさぁ! 会いたいんだろぉ。おいらもお姉さんに会いたいし』

 きゃんきゃんと喚く内からの声は、右丸の中にいる烏天狗だ。

 何年か前に、人に紛れて祭りを見に来たこの烏天狗の子供が、運悪く貴族の連れていた陰陽師に見つかり、散々に懲らしめられた挙げ句、命からがら逃げ込んだのが、多子の牛車だったのだ。

 多子は見鬼の力のある姫だった。
 見鬼とは文字通り、鬼を見抜く力。
 見えざるモノを見る力だ。

 そのため多少のことでは驚かず、また飛び込んできた烏天狗がまだ幼かったこともあり、可哀相に思って匿ってくれた。
 その後烏天狗は右丸に託され、陰陽師の追っ手から逃れるために、右丸の了承の上身体に入り、今は右丸の身体を共有している状態だ。

 ちなみに‘烏丸’というのは、鬼退治の過程で、呉羽に懐いた烏天狗に、呉羽自身がつけた名前だ。
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