妖(あやかし)狩り・弐~右丸VSそはや丸~
「俺からあなた様をお守りせねばと思ったのでしょう」

 立て続けに妖気を叩き込むのは危険だ。
 口移しでゆっくりと移る気に比べ、眼力を要して一瞬の内に叩き込む妖気は、相手を失神させることからわかるように、相当強い。
 叩き込む側にも負担があるのだ。

 そはや丸は、ゆっくりと女官に顔を寄せる。

「わ、わたくしを・・・・・・?」

 至近距離に近づいたそはや丸にどぎまぎしつつ、女官はようよう口を開く。

「右丸からしたら、俺はあなた様のところに忍んできた不埒者ですからね」

「まぁ・・・・・・」

 赤い顔のまま、そはや丸を見上げる女官は、最早右丸のことなど目に入っていない。
 言葉通り、そはや丸が女官を口説いていると思っている。

 初めは地下人のそはや丸を見下していたが、今やすっかりそはや丸の虜だ。
 期待の籠もった熱い瞳を、一心にそはや丸に向けている。

 一瞬そはや丸は、にやりと口角を上げた。
 妖のそはや丸がそういう表情をすると、大抵の者は背筋に冷水を浴びせられたような気になるのだが、すっかりそはや丸に魅せられた女官には、そうは映らないらしい。

 そはや丸は、そのまま女官の口を己の口で塞いだ。
 先程よりも、深く。
 女官は、うっとりと目を閉じ、身の内に妖気を入れられているとも知らず、恍惚の表情で、そはや丸に身を委ねている。

 その女官が、不意に目を見開いた。
 瞬間、そはや丸は顔を離し、右丸のほうへ屈み込むと、彼の口をこじ開ける。
< 51 / 69 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop