妖(あやかし)狩り・弐~右丸VSそはや丸~
「ああ! ねぇお姉さん。もしお姉さんが一緒に来てたら、もしかしてそはや丸は、お姉さんに接吻してたのかしらっ」

 きゃあ、とまた妙にはしゃぎ、烏丸が膝の上でぴょんぴょん跳ねる。

「うわぁ、そんなこと右丸の前でしたら・・・・・・」

「・・・・・・面白かっただろうな。ち、そうすりゃ良かったぜ」

 ぼそりとそはや丸が呟く。

「何言ってるんだ。私が行ったら、わざわざお前に妖気をわけてもらわんでも、それなりに自分で対応できる。ま、確かにわけてもらったほうが、手っ取り早くて楽だけどな」

 呉羽にとっては、接吻など単なる気のやり取りでしかない。
 やはり特に何の反応も示さず、呉羽は、おや? と首を傾げた。

「おい。あの女房殿を媒体に使ったのか? 確かに肝の据わった女子ではあったが、何の心得があるわけでもなかろう。そんな奴に、妖気を入れたのか? 大丈夫なのか?」

「さぁ? ヒトなんて、どうだっていいだろ」

 寝転んだまま、そはや丸は素っ気なく言う。
 そこでようやく、呉羽は帰って来るなりそはや丸が水瓶で口を漱(すす)いでいた訳を理解した。

「はぁ、だからやたらと水を使っていたのか。何だ、お前も気を移すのは嫌なんだな」

 ぽん、と手を打つ呉羽に、そはや丸はちらりと目を向ける。
 そして、不意に呉羽の腕を掴んだ。

「普通の女子の陰の気なんざ、気色悪くてたまらんぜ。お前も外法師の端くれだろ。ちょっとは浄化の気を持ってるんじゃないか?」

「どうかなぁ? お前からしたら、私だって単なる普通の女子だろ? 女房殿と変わらんよ。大体お前も、存外子供っぽいことをするな。気なんざ、水で洗ったところで取れぬだろうに」

 神水でもないしな、と言いながら、なんと呉羽は、ひょいと上体を倒すと、そはや丸の口に、己の唇を重ねた。
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