妖(あやかし)狩り・弐~右丸VSそはや丸~
「きゃあぁぁ~~お姉さんっっ!!」

 呉羽の膝から転がり落ちた烏丸が、悲鳴に似た声を上げる。

「ああ、すまんすまん」

 そはや丸から顔を離した呉羽が、床に転がる烏丸を抱き上げた。
 何も烏丸が上げた悲鳴は、転がり落ちたためではない。
 呉羽が全く抵抗無く、自らそはや丸に接吻したことへの叫び声だ。

 呉羽に抱け上げられ、烏丸は再び膝に乗りながら、ちら、とそはや丸を見た。
 そはや丸も、少し驚いたような顔をしている。

「どうだ? ちょとはマシになったか?」

 先と変わらぬ自然さで、呉羽がそはや丸に言う。

「・・・・・・ああ」

 ごろりと、そはや丸は背を向けた。
 それは良かった、と、呉羽の明るい声がする。

 この胸の疼きは何なのだ。

 そはや丸は寝転がったまま、身体を丸めた。
 右丸のように、顔が赤くなったり、鼓動が跳ね上がったりすることはない。

 そはや丸は物の怪だ。
 人型はあくまでかりそめ。
 本来の姿は刀である。

 だが、そはや丸はほとんど人型で過ごしている。
 姿だけでなく、生活態度もほぼヒトと変わらない。
 寝ている間はいざというときのために刀になるが、それ以外では、普段はほぼ人型だ。

 そはや丸は、思考の深みに入っていく。

 わざわざ人型で生活しているのは、呉羽のためではないのか。
 呉羽が寂しくないよう、わざわざヒトとして傍にいるのではないか。
< 59 / 69 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop