電網自衛隊
「俺は海自ではイージス艦のコンピューター担当だった。陸自、海自、空自から経験者を30人ずつ、それから防衛大や各地の訓練機関からまっさらの新人を10人。合計100名。しかし、この部隊そのものが今日出来たばかりなんだから、ここの業務に関しては全員が初体験というわけさ」
「そして君はそのまっさらの10人のうちの一人というわけだ」
 不意に後ろから声をかけられ、昇二はあわてて振り向いた。そこに立っていたのは隊長の吉田2佐だった。40代とおぼしき、温厚そうな男だった。あわてて椅子から立ち上がろうとする昇二を手で制して隊長は言葉を続けた。
「では、新田3尉。初仕事として山口1尉と一緒に今日の東京急行の分析をやってくれ」
「は?領空侵犯があったのですか?」
 ぽかんとした表情でそう聞き返す昇二を見て、隊長と山口1尉がそろってぷっと吹き出した。隊長が笑いを押さえながら言う。
「ははは、すまん、すまん。こっちの東京急行の事は実際に部隊に配属されるまでは教えないのが規則だったな。山口1尉、一から教えてやってくれ」
「了解です、隊長」
 そして隊長は自分の席に戻った。その姿を目で追っていた昇二は、ある事に気づいて小声で山口に問いかけた。
「あのう、1尉。ひとつ質問よろしいですか?」
「うん?何だ?」
「こんなハイテク部隊の本部になぜあんな骨董品の電話があるんですか?」
 隊長の机の上には、通常の内線電話の機械と並んで、今は日本中探しても見かける事はないだろうダイヤル式の黒電話があった。
「あれは隊長の趣味ですか?」
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