電網自衛隊
 山口のパソコンの画面には東京の地図があり、その上に数百本の赤いラインがでたらめな模様を描いて走っていた。一カ所、そのラインが集中して真っ赤になっている部分があった。山口が地図をクリックして拡大すると、駅のマークが出て来た。都営新宿線の市ヶ谷駅だった。山口が昇二に視線を向けて尋ねる。
「新田、君が今朝降りた駅というのはここか?」
「はい!そうです。じゃあ、あれはサイバー攻撃?」
「だから、それは分からん。このあたりにおかしなネット情報の集中があったのは確かだが、それと停電の因果関係を証明するのは不可能だ。よし、データをそっちに送る。報告書の書式は知っているな」
「了解です。その後はどうするのですか?」
「どうって……別に何もせんよ」
「は?」
「幕僚長の訓示を聞いてなかったのか?この部隊の任務はあくまで自衛隊の通信系統を守る事。たとえこれが停電の原因だと断定出来たとしても、それは民間の問題であって自衛隊は一切口出し出来ん。報告だけはするが、それ以上の事はやってはいかんのだ」
「そうでした。自衛隊は警察法体系の組織……」
「よし、そこは分かっているようだな。初日からがっかりしたか?サイバー空間防衛隊なんて言っても、これが現時点での現実だ」
 自衛隊は当初「警察予備隊」という名で発足した。だからおそらく世界で唯一、警察と同じ規制下に活動する軍事組織になってしまっている。
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