電網自衛隊
 サイバー空間防衛隊の本部では、隊長が内線電話の受話器を握りしめたまま汗まみれになって防衛大臣とむなしい会話を続けていた。
「大臣!これはもうサイバー攻撃としか考えられません。信号機の異常はまだ神奈川県東部に留まっていますが、いつ他へ飛び火するか。もしそうなったら……」
 だが受話器の向こうの防衛大臣は同じ事を繰り返すばかりだった。
「だからさっきから言っているだろう。信号機の異常は災害ではない。自衛隊に災害出動命令を出すには、地震や台風のようなそれ自体が物理的な破壊力を持つ事態でなければならんのだ。とにかく待機だ。切るぞ」
 隊長は力なく受話器を戻し、立ち上がって全員に告げた。
「命令変わらず。待機を続けろ!」
 日付が木曜日に変わりかけた頃、1機のヘリコプターが首相官邸のヘリポートに着陸し、白髪の大柄な男が官邸内部に続くドアに向かって憤然とした表情で向かった。首相秘書官が駆けつけ、その男に一礼して申し訳なさそうに言った。
「石川都知事。直接おいでになられましても、総理は今会議中で」
 その男はライオンが吠えるような口調で怒鳴った。
「私は東京都知事として、自衛隊の災害派遣を要請したんだ!会議を始めてくれと誰が頼んだ!どけ!通すんだ!」
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