電網自衛隊
 木曜日の午前3時、防衛大臣を通じて内閣総理大臣からサイバー空間防衛隊に「災害出動」の命令が下った。隊員たちはどっと喜びの声を上げたが、隊長は苦しそうな表情で大声で付け加えた。
「命令が下ったのは、このサイバー空間防衛隊にだけだ。他の自衛隊部隊は一人たりとも動けない。首都圏で今起きている混乱に対処するための活動はまだ一切許可されていない」
 隊員の間に一挙に失望の声が広がった。隊長は言葉を続ける。
「今我々に出来る事は、信号機の異常を引き起こしている発信元を突きとめる事だ。自衛隊の威信がこの部隊に今かかっている。全員、何としてでも発信源を突きとめろ!」
 木曜午後1時、ついに隊員の一人が信号機の異常を引き起こしているコンピューターサーバーを特定した。それは都内のあの会社のイントラネットだった。隊長がそれを防衛大臣に電話で報告すると、またもや意外な返事が戻って来た。
「何ですって?大臣、それはどういう事です」
「民間企業なんだろう、そこは?自衛隊が反撃を許されるのは相手が軍隊ないしそれに準じる組織の場合だけだ。民間人への攻撃は許可出来ない」
「いや、攻撃と言っても、ハッキングして問題のサーバーの機能を停止させるだけなのですが」
「しかし自衛隊がそれをやったら、民間人に対する武力攻撃になってしまう。仮にやるとするなら出動命令が必要だ」
「いえ大臣。災害出動命令なら既に拝領しております」
「違う!治安出動だ!国内で民間人に実力行使するんだぞ。総理から新しく治安出動命令をもらわねばならんのだ!」
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