電網自衛隊
 首都圏全体が停電したため鉄道網も全て麻痺し、帰宅難民があふれた。東京都知事は都庁舎、各区役所、その他公共施設の建物を全て開放し帰宅難民の一時避難場所として提供した。
 だが思わぬ事態が起きていた。ここ数日の電話、ネットの不具合で都内全域のスーパー、コンビニの仕入れが滞っていて、帰宅難民の食料品、飲料水が手に入りにくい状況になっていたのだ。どこのコンビニの棚も食料品は空になり、自動販売機が停電で止まっているため飲み物を買う事も出来なかった。
 金曜日午前2時、サイバー空間防衛隊の隊員が3カ所、このクラッキングの発信源と推定される場所を突き止めた。ひとつは大阪の市役所のイントラネット、二つ目はアメリカの電力会社のネット、三つ目は中国広東省にある工場のネットだった。
 山口と昇二はこの3カ所に向けていつでも反撃プログラムを注入出来るようにメインフレームのコンピューターを調整、あとは例のUSBを端子に差しこむだけ、という所まで準備した。
 午前5時、ようやく電気が復旧し電車も動き始めた。帰宅難民として一夜を過ごした人々は疲れきり憔悴した顔で我先に電車に乗り込んだ。どの電車も身動きすら出来ないほどのすし詰め状態になって走り始めた。
 その頃、サイバー空間防衛隊の本部の大型スクリーンに例の3カ所のサーバーから信号が送信されている事を示す画像が映った。だが、その信号の経路を示す赤いラインは3カ所を同じように通り、ボット化されたらしいパソコンやスマートフォーンに拡散して行き、どれが本当の発信源なのかを特定出来るには至らなかった。
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