電網自衛隊
 連絡を受けた隊長は防衛大臣と総理大臣が待つ部屋に戻り、事の次第を説明したが、やはり事態は進展しなかった。総理が言う。
「それはまずい。国内のネットなら治安出動になるし、アメリカ、中国のそれなら日本が武力攻撃をする事になる。特にアメリカはサイバー攻撃には実際の軍隊で報復すると宣言している。それに……」
「それに、何でしょうか?」
 隊長はさすがに苛立ちを込めた声で尋ねた。
「そもそも、その相手は本当に軍隊なのか?それを証明出来るのかね?これがサイバー攻撃だという事は認めるとしても、もし相手が民間人だったらどうする?民間人に対する自衛権の行使は憲法上認められるかどうか」
 午前7時、NR東日本の鉄道運行状況を示す制御室でそれは起こった。埼玉県内で2件相次いで列車の衝突事故が起きたという緊急連絡が入ったのだ。だが中央制御室に示されている列車のデータは何事もなかった事になっている。
 ベテランの運行員の一人が非常用電話で入って来る各列車の位置とスクリーンに映し出されている電車の位置を見比べてそれに気づいた。そして叫んだ。
「それは全部5分前のデータだ!列車の実際の位置とデータ上の位置が5分ずつずれているんです!」
 制御室長が真っ青な顔で言う。
「それでATSが、自動停止装置が働かなかったのか!全列車緊急停止!全て今すぐに停めろ!」
 だが次の瞬間、非常用電話が一台残らず一斉に鳴り響いた。列車に事故が起きた事を示す赤いランプを点滅させながら。
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