電網自衛隊
 午前11時。昼食時の需要増大を控えてフル稼働していた千葉市の海沿いにある、火力発電所のタービンの異常に定年間近のベテラン運転員が気づいた。音の波長が高過ぎる、そう彼は思った。急いで内線電話で中央制御室に連絡したが、相手は真面目に取り合わなかった。制御室のコンピューターのデータは何の異常も示していなかったからだ。
 この時、外部から発電機のタービンの回転数を狂わせる信号が送り込まれていたのだが、中央制御室の主任は電話を切りながら周りにこう言い放った。
「まったく、定年前にいいところを見せようってか?これだからご老体は……」
 その十分後、全発電機のタービンが回転数の限界を超えて破損し、火花が燃料に引火、発電所全体を包む大火災に発展した。
 それと同時に、ネット上のツィッターのサイトにこういう書き込みが多数現れた。
「千葉の原発が爆発したぞ」
「俺も見た。あれ絶対放射能が漏れてるぞ」
「フクシマと同じだ。千葉の人、早く逃げろ」
 その様子はサイバー空間防衛隊でもキャッチしていた。
「千葉の原発って……あんな所に原発はないはずだぞ」
 大型スクリーンに次々と映し出される書き込みを見て、隊長代理になった山口1尉が憤然として声を上げた。
「誰か、念のため紙の地図で確認してくれんか?」
 近くにいた女性隊員が関東地方の地図を広げて千葉市のあたりを見る。
「それは火力です。帝都電力の千葉中央火力発電所ですね」
 それを聞いた昇二は自分のアカウントで否定する書き込みを投稿し続けた。
「それは原発じゃない、火力発電所だ。デマに惑わされるな」
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