電網自衛隊
「くそ!なんで、こういうのだけはちゃんと動くんだ!」
 サイバー空間防衛隊の本部でツィッターの扇動者と格闘しながら昇二はうめいた。自分で言った言葉で、昇二はやっとあの違和感の正体に気づいた。ネットもスマートフォーンも機能不全に陥っているのに、なぜSNSだけは支障なく動いている?なぜここでの書き込みだけはこうもスムーズに出来る?
 その疑問を山口に告げると、彼も思わずバンと机を叩いた。
「そうか!トレースバック班!ちょっと来てくれ!」
 トレースバックとは、メール、書き込み、その他のネット上の行動を逆にたどって発信元を突き止める作業だ。通常そう簡単に逆探知は出来ないのだが、今回は発信元の見当が3カ所まで既に絞り込まれている。そこを集中的に監視すれば逆探知も可能だ。
 山口から説明を受けた女性4人のトレースバック班のリーダーはしきりにうなずきながら言った。
「なるほど、デマを拡散させるために一部のソーシャルメディアだけは機能させている。その書き込みをトレースバックすれば本当の発信源が特定出来る……分かりました。やってみましょう。新田3尉、あなたは書き込みを続けて。その相手になるべく多く発信させてちょうだい」
「了解!」
 昇二が書き込む反論を否定しようと相手も次々に長い文章を送信して来る。昇二はそれがあらかじめ用意された文章をパッケージにして送っているのだと確信していた。それならこの人間離れした書き込みの速さも説明がつく。
 果たしてトレースバック班のリーダーが大声を上げた。
「特定成功!中国よ!中国のサーバーが本体だわ!でもこれ……日本企業の工場じゃない!」
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