電網自衛隊
 山口が彼女の席に駆け寄って、画面をのぞく。
「名古屋に本社のある電機メーカーだな。そこの液晶パネル工場か」
「だったら!」
 昇二は椅子を蹴飛ばすようにして立ち上がった。
「あれを使いましょう!リアルの場所は外国でも、日本企業のサーバーなら外国を攻撃した事にはならない!」
 だが山口は首を横に振った。
「理屈の上ではそうかもしれんが、それは総理が判断する事だ」
 予想通りの答だった。昇二はメインフレームめがけて走りだし、止めようと追いすがる同僚たちにくるっと向き直って手の中の拳銃の銃口を向けた。全員が足を止める。山口が顔を真っ赤にして怒鳴った。
「よせ!やめるんだ、新田3尉。それは命令違反、いやその前に犯罪だ!」
「なら自分は犯罪者になります!」
 昇二は怒鳴り返した。
「こんなの、どう考えたっておかしいでしょう!みんなだって、家族や友達や恋人とかが、いるんでしょう?あの大混乱に中に!俺はこの国とこの国の人たちを守るために自衛隊に入ったんだ!自衛隊って国民を守るためにあるんでしょ!法律や規則を守るために国民を見殺しにするって、そんなのおかしいじゃないですか!」
 昇二は手探りでUSBメモリーを一個手につかみ、メインフレームにじりじりと近づいた。山口はなんとか止めようと必死に言葉を探したが、昇二の言葉を否定出来る論理をどうしても思いつけなかった。
「その必要はないぞ、新田3尉」
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