電網自衛隊
 突然部屋のドアの方から大声がした。隊長がいつの間にか戻っていて、つかつかと昇二の方へ歩いて来た。そして制服の内ポケットから一枚の紙を出し、広げて昇二に見えるように両手で頭の前に掲げた。
 それは内閣総理大臣の署名入りの命令書だった。隊長が続けて大声で部屋中に響き渡る声で言った。
「自衛隊全隊に、防衛出動命令が出た。政府がやっと、今回の件をサイバー攻撃であり、日本国に対する武力攻撃に準じる物と認めたんだ!山口1尉、君がUSBを使え。反撃を許可する!」
「ハッ!」
 山口は昇二の手からUSBを奪い取り、メインフレームの端子に差しこみ、エンターキーを押した。メインフレームの内部からウィーンとディスクの回転音が聞こえた。隊長は昇二の手から拳銃を取り上げながら、厳しい表情で、しかし優しげな目つきで言い渡した。
「君が犯罪者になる必要はもうなくなった。だが重大な命令違反だぞ。別命あるまで謹慎を命じる」
 がっくりと首をうなだれてその場を去ろうとする昇二の肩を隊長がつかんで、一枚のメモ用紙を手に押し付けた。千葉市内の病院の名前が書いてあった。隊長は他の隊員に聞こえないように小声で告げた。
「篠原瞳という女性がそこに収容されたそうだ。君の婚約者だろう?すぐに行ってやれ」
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