電網自衛隊
 横にいた中年の女性が同調して叫ぶ。
「そうよ!自衛隊がもっと早く動いてくれたら、あたしの娘は死なずに済んだのよ」
 それをきっかけにその場にいる全員が一斉に昇二を罵り始めた。
「4日も5日も指くわえて見てやがったのか?てめえらは、国民を守るって言って給料もらってんじゃないのか?」
「そうよ、月給泥棒!」
「いいや、税金泥棒だ!」
「この役立たず!あたしのお父さんを返してよ!」
 数人から体を引っ張られ、昇二は手をついて床に土下座する様な格好になった。昇二の口からかすかに言葉が漏れた。
「申し訳……ありません……」
「ふざけんな!謝ってすむ事か!」
「そうだ、自衛隊!責任取れ!」
「やめて下さい!」
 周囲を圧倒する金切り声が響いた。瞳の遺体を抱き起こした金子が発した叫びだった。
「この遺体はその人の婚約者なんです!その人だって、あなたたちと同じように大事な人を失くしたんです!同じ犠牲者なんです……だから、もう、やめて下さい……」
 それを聞いた人たちは一様に気まずそうな、バツの悪そうな顔になって無言で安置所を出て行った。部屋には昇二と金子だけが残された。昇二はさっきと同じ姿勢のまま、まだ何かをつぶやいていた。金子が昇二の横に来て肩を揺さぶった。
「新田君、大丈夫?ねえ!あたしの声、聞こえてる?」
 だが昇二は床に手をつき、涙を流しながらいつまでもつぶやいていた。
「申し訳ありません……申し訳ありません……申し訳ありません……申し訳……」
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