電網自衛隊
 あの山荘での会合から2週間後、昇二と竜は茨城県のある地方都市で一軒の家に押し入り、その10人を殺害し、竜がそいつのパソコンを調べているところだ。ほどなく竜が嬉々とした声を上げた。
「先輩、こりゃ当たりかもしれないすよ」
「どうした?」
「ファイルが全部そろってる。ただの踏み台なら分割して送り込むはずだ。こいつは犯人の、少なくともその一人って可能性が高いすね」
「そうか。ん、ちょっと待ってろ」
 昇二が何か気配を感じてそっと窓により、カーテンに隙間から外を見ると機動隊らしい警官がその家を遠巻きにしているのが見えた。どうやら警察にかぎつけられてしまったらしい。
 その事を竜に告げると彼は震えあがった。昇二は竜の両肩をがっちりつかんで子供をあやすような優しい声で言った。
「いいか、よく聞け。外の警官は俺が引きつける。おまえはその間に打ち合わせ通り、裏から逃げろ。なんとしても、そのマザーボードを令嬢の所に届けるんだ。いいな」
 竜は真っ青な顔で無言でうなずく。昇二は拳銃を構え、内ポケットから取り出した医療用カプセルをためらいもなく一気に飲み込んだ。竜がヒッと悲鳴を上げる。それは遅効性の毒薬で10分ほどでカプセルが溶け、致死性の神経毒が溶けだし100パーセント確実に死亡する。万が一警察の手に落ちた時に捜査の手が令嬢に及ばないようにするためだ。
 昇二は拳銃を胸の高さに構えて玄関のドアに向けて歩き出した。直前で振り返って竜に言った。
「後は頼むぞ。本物の自衛隊がサイバー戦でこの国を守れるようになるまで、おまえたちが日本を守るんだ」
 そう言って昇二は、今まで竜が見た事のない晴れやかな笑顔を浮かべ、小さく敬礼した。そして竜に「行け」と手で合図し、ドアのノブに手をかけた。竜は裏口へ急ぎながら振り返った。
 開いたドアの向こうからはまばゆい日の光が差し込み、昇二はまるで光の世界に入って行くかのように、竜の目にはそう見えていた。
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