電網自衛隊
 二階の客間に上がって行く間、竜は無遠慮に屋敷のあちこちをきょろきょろ見回していた。この相棒はこの屋敷に来るのは初めてだったな、と昇二は思い出しながら、階段を上がり重厚な木のドアをノックした。
「どうぞ」
 中から若い女の声がして、二人は部屋の中に入った。部屋の真ん中のクラシックなテーブルに、白いドレス風のワンピースを着た若い、というよりまだ少女と言っていいような女性が腰かけていた。その隣には既に先客があった。昇二と同じような、鍛え上げた体つきの同年代の男が座って、なんとなく居心地の悪そうな雰囲気を漂わせていた。
 昇二は片手を軽く上げてその男にあいさつし、向かい側の椅子に座って竜を自分の隣に座らせた。女の方が先に口を開いた。
「それで、今回はいかがでした?」
 鈴を転がすような声とは、こういうのを言うのだろう。昇二も竜も彼女の本名は知らない。「令嬢」とだけ呼ぶのが彼らの組織の決まりだ。話しぶりといい、動作の上品さといい、確かにどこかの大金持ちの名家のご令嬢なのだろう。昇二はひとつ深呼吸をして報告を始めた。
「半分は当たりでした。ただ、『ボット』でしたが」
 横から竜が相変わらずチャラチャラした口調で補足する。
「ありゃ踏み台でしたよ。まあ、本人が分かっててやってた分、悪質っちゃあ、悪質ですけどね」
「あ、あの、すみません」
 令嬢が少し困ったような微笑を浮かべながら言った。
「申し訳ありませんが、私はそういう専門用語には疎くて……」
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