電網自衛隊
 昇二は竜に目配せして説明するよう促した。素人に分かりやすく説明するのは竜の方が上手い。
「まあ簡単に言うと、パソコンを外から自由にコントロールできるようになっていた、って事です。そういう機能を持ったソフトウェアの事を『ボット』って呼ぶわけです。そんで、乗っ取られたパソコンがいっぱいネット上でつながって、一種のパソコンネットワーク作るんですけど、これを『ボットネット』とか『ゾンビパソコン』なんて呼んだりもしますね。このボットネットがインターネットに接続されている他のパソコンに潜り込んでいろいろ悪さをするわけです。ここまでは分かります?」
「はい!竜君の説明はいつも分かりやすいわ」
「へへ、それほどでも」
 そこへさっきの老執事が人数分の紅茶を運んで来て各人のテーブルに置き始めた。昇二が構わない、という合図でうなずいたので、竜は説明を続けた。
「そのボットに入りこまれたパソコンなりサーバーの事を踏み台って言うんですよ。普通は持ち主も気づかない間に入り込まれるんで、そのパソコンの持ち主の人間様の事も踏み台って呼ぶ事があるんすけどね。今回のやつは、金もらってわざと自分のパソコンに、マルウェア……あ、これはそういう悪さをするために作られたソフトの事すけどね……そのマルウェアをインストールしてた、まあそういう事です」
「まあ。お金と引き換えに?では何億円ぐらいだったのでしょう?」
 昇二が苦笑して答えた。やはり筋金入りのお嬢様らしい。
「30万円、と本人は言ってましたが」
「は?たったの30万円。そのためにそんな怪しい話を引き受ける方が世間にはいらっしゃるのですか?」
「そいつはヤクザでした。ただ、普通の一般市民でもその、たった30万円に目がくらむ人間はゴマンといますよ」
「それで、その方は今?」
「もちろん行ってもらいました。ああいう手合いは金をちらつかされれば、またいつでも喜んで自分から踏み台になる」
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