電網自衛隊
「それで、そのマ、ええと、マルウェアとかいう物は、軍事用なのですか?」
 ここでまた竜が答える役を代わった。
「詳しい仕様はこれから解析しないと何とも言えないですけどね。ただ、俺がちらっと見ただけでも、ありゃそんじょそこらのプログラマーに作れる代物じゃないのは分かりますね。プロ中のプロの仕事って事だけは確かですよ」
 紅茶を配り終わった老執事が部屋を出て行ったところで、第三の男が初めて口を開いた。
「なあ、新田。まだ続けるのか?俺は気が気じゃない。考え直す気はないのか?」
 昇二は彼の顔を見ずに答える。
「おまえには悪いと思っているよ、高山。俺と違って、おまえは今でも現役の自衛隊員、それもサイバー空間防衛隊の隊員だ。自衛隊内部の情報を外部に提供していて、しかもその相手がテロリスト、殺人狂だとばれたら、おまえも刑務所行きは免れん」
「いや、テロリストだの殺人狂だの、自分の事をそんな風に言うな。少なくとも俺は……」
 昇二はその男、高山の言葉を強引に遮った。
「どう理屈をつけようが、俺のやってきた事、そしてこれからする事は、正義でも何でもない。ただの人殺し、犯罪でしかない。そして俺は自分の意思でそれを選んだ。おまえを巻き込んだのは今でも悪いと思っている。いつでも手を引いてくれてかまわん」
 さらに高山が何か言いかけた時、突然部屋の電気が全て消えた。昇二も竜も高山も思わず息を呑んだ。昇二は反射的にジャンパーの内ポケットから拳銃を取り出し、暗闇の中を手探りで窓に近づき、カーテンを開け放った。遠くに町の灯りがちらほらと見えた。
「停電はここだけなのか?」
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