電網自衛隊
 昇二がそうつぶやいた時、また電気が戻り部屋の照明が点灯した。バタバタと足音がして老執事があわてふためいて部屋に駆け込んで来た。
「申し訳ございません!何かお食事をと思って電気オーブンを使っていたら、ブレーカーが落ちてしまいまして。なにせ古い建物なものですから」
「あら、今のは停電でしたの?」
 令嬢がさっきまでと寸分たがわぬ姿勢で紅茶をすすりながら言った。
「目が見えるというのは、不自由な事もあるのですね」
 それを聞いた高山が口をポカンと開けて、昇二の方を見た。昇二はカーテンを元通りに閉めながら、高山に向かって言った。
「おまえ、まだ気づいてなかったのか?彼女は全盲なんだよ。あの時の事件の被害者なんだ」
「はい」
 令嬢が後を引き取って言う。
「火の海になった環状7号線の車の中にいました。両親はその場で命を落とし、私も視力を永久に失くしました」
「そうだったんですか……」
 高山は椅子に座りなおしながら、また昇二に向って言った。
「気持は分かる。だが、法整備だって進んでいないわけじゃ」
 また昇二がそれを遮る。
「大綱の素案とやらを来月まとめて、与野党協議に入るんだよな?来年の……来年の通常国会で!いつになったら法律は出来る?いつになったら、おまえたちサイバー空間防衛隊がまともに働けるようになるんだ?その前にまたあれが起きないという保証がどこにあるんだ!」
「それについては申し訳ないと思っておりますわ」
 それに答えたのは高山ではなく令嬢だった。
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