無敵草食獣王子の憂鬱。真実の愛を繋ぐ強く堅い絆は風になって走ること。運命をかけたゴールはすぐそこだ!
 
 観客が息を殺して、俺の仕上がり具合をじろじろと見ている。


 欲望と熱気でうかされた、パドックをぐるりと回ると。


 今日の、スターティング・ゲートが目に入って来た。


 高さは、3メートルあるものの、幅が1メートルしか無ぇ。


 馬とヒトが、一人やっと入れるような、せまっ苦しい灰色の檻が18個も並んでやがる。


 競馬場の芝を二千メートル走るのは、好きでも、ここに入るのは嫌いだ。


 思わず腰を引いたら、枠入りをサポートする、整馬係が山ほどやって来て、俺をスタート地点に押し込みにかかる。


 そいつらを、いつものように、二、三人蹴り倒したところで、ゲートに入ると、後ろ扉を閉められた。


 その、閉まる音に音に緊張感が増し、体勢を整えた、とたんだった。



 がしゃっ!!


 一斉に、前扉が開いて、急に視界が広がった。


 観戦席の人間も、どおっと叫ぶ。


 これが、俺とアイツのラスト・ランの始まりだったんだ。





 


 





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