無敵草食獣王子の憂鬱。真実の愛を繋ぐ強く堅い絆は風になって走ること。運命をかけたゴールはすぐそこだ!
 俺は、腹が減り、目の前に飼い葉があれば、人間がいても、勝手に喰うが。


 俺の目の前で、飯を食べる人間は、ほとんど皆無だ。


 それが、調教師だの、厩務員だのって言う、競馬を裏から支えるヤツらはともかく。


 体重制限の厳しい天下の騎手が、決められた場所じゃなく、俺と一緒に飯を食う、なんて、前代未聞の話だった。

 しかし。


 なんだって、この女は、食い物の前では、すごく楽しそうなんだ?


 さっきは、やたらと俺の名前を呼んで、無視され、半泣きだったのに。


 何食って元気になったんだろう?


 思わず、興味を持って手もとを覗けば。


 何だか良く判らないモノが詰まった、四角い箱の横に、丸い容器があり。


 そこから、なにやら、甘い匂いがした。


 ……って!


 甘いもの!? 角砂糖か!?


 何を隠そう!


 俺達馬は、甘いものに目がない。


 思わず檻の叫んだ『角砂糖!?』発言に。


 放牧されていた馬たちが、数頭。


 わらわらわらっと、彼女の前に集まって来た。

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