姫は救うと微笑み、神は殺すと無邪気に言った


カップの淵をすうっと指でなぞりながら。


「ただ悲しいです」


うっすらと哀を込めた色合いを持って言って見せた。


悲しいとは、姫にしてみれば自殺した人の死ではなく、そうなるまでの過程を思ってのこと。


人生を帳消しにする生への逃亡に至るまでの苦しみを肌から感じたか、人の痛みには敏感らしい。


――善人か。


見定めるようにして、茶神はある一つの断定を出した。


姫の人となり。見た目通りと判断して間違いなどなく、自分とは真逆かと区別した。


茶神は善人ではない。


自分の享楽がためだけに動く者が、一々他人の苦痛に手を伸ばしたりなどしなかった。あるとすれば、もっと楽しくなるようにと弄くり回すことか。遊び道具に茶神は情を持たぬし、また人間たちをそうと認識する茶神を善人と尊ぶ人はいないだろう。


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