無口な彼が残業する理由 新装版
結局答えを聞きそびれてしまった。
私は出した腕を引っ込めて会話に耳をすます。
「ああ、そうだよ」
「別に」
「神坂さんの部屋」
「違う。具合悪そうだったから」
「熱出したみたい。薬飲ませて寝かせてる」
話してる雰囲気からして、電話の相手が青木だろうということは想像がついた。
青木、丸山くんが出たから驚いてるんだろうな。
「……お前にそんなこと言われる筋合いないよ」
声のトーンが低くなった。
何か、怒ってる?
「いつも近くにいるくせに、どうして気付かなかったの」
そのせいか、いつもより饒舌だ。
「顔を見れば明らかだろ」
昼間に私が拒絶された時とは比べ物にならないくらい
ハッキリと声にされる怒りの感情。
「やだよ。言っただろ。俺は諦めたわけじゃない」
青木は一体何を言ったの?
丸山くんの言葉だけじゃ二人の会話はわからない。