無口な彼が残業する理由 新装版

「戻ってきちゃった」

ぽつりと呟くと、自分の声が空しく事務所に響く。

一人きりの残業だ。

私はパソコンを立ち上げてから席に座った。

改訂版の企画書がもうすぐ完成する。

明日は土曜日だし、

この際、仕上げて帰りたい。

「丸山くんに、怒られちゃうかな」

病み上がりのくせにって。

ううん、そんなことないや。

今ごろ愛華ちゃんと楽しく、しかしながら無表情で楽しんでいるはずだ。

「あーもう、バカ」

丸山くんのバカ。

さっきのキスは何なのよ。

本当に私のことが好きなら、

誠意を見せなさいよ、誠意を。

キスなんかで誤魔化されるもんか。

バカ。
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