無口な彼が残業する理由 新装版
女子トイレ、パウダースペース。
説得力を上げるには目力だ!
とアドバイスをくれた課長に従って、
アイメイクのチェックをしているところだった。
アイメイクだけではない。
今日は特別に、いつもは下ろしっぱなしの髪をアップにした。
「気合い入ってるね、神坂」
菊池さんが隣に並ぶ。
会話は鏡越しに行われた。
「はい。勝負ですから」
「うちの丸山と沼田も出席するから、よろしくね」
「……こちらこそ」
未だに心でくすぶり続ける名前を聞いて、
返事に少しだけ躊躇してしまった。
菊池さんはそれを見逃さなかった。