無口な彼が残業する理由 新装版

丸山くんに包まれるのは、どれくらいぶりだろう。

「バカ……」

好きになるまでは何とも思わなかったのに。

無口で無表情で無愛想な、

ただの扱いづらい同期としか思っていなかったのに。

今ではこんなにもこの温もりを待ちわびていたなんて。

もっといっぱい文句を言ってやりたいのに、私の覇気は丸山くんの熱に溶けてなくなった。

「ごめん」

再び謝罪の言葉を呟いた丸山くんは

キュッと押し付ける力を強めた。

「俺、別に隠してたわけじゃない」

「うん」

「言うタイミングが掴めなかった」

「どうして?」

丸山くんの胸から、直接振動が伝わってくる。

私の鼓動より、ずっと速い。


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