無口な彼が残業する理由 新装版

聞きたかった言葉を、やっと聞くことができた。

さっきとは違う涙が溢れた。

「何よぉ……私のこと、フッたくせに」

嬉し涙。

なのに憎まれ口しか叩けない。

そんな可愛いげのない私でも、

あなたは好きでいてくれる?

「あれは、フッたわけじゃなくて……」

困った顔をする丸山くんが無性にいとおしい。

「もういいもん」

わかってるよ。

ツイてないあなたが、欲張らないためだってこと。

私、覚えてるから。

もう6年くらい前のことだけれど。

あんな人と仕事をしたいって思ってた。

「ありがとう、丸山くん」

「え?」

「私と同じ会社に入ってくれて、ありがとう」

丸山くんはにっこり笑って

「こちらこそ」

そう言った。

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