無口な彼が残業する理由 新装版

私はあの時の気持ちを思い出して、

心の中がざわついた。

「飲み会の後、会社に戻ったの」

「なんで? 病み上がりだったくせに」

無表情の中に不機嫌さが垣間見えた。

私にだって言い分はあるんだから。

「誰かさんが、可愛い新人と二人で飲みに行っちゃったからよ」

「え?」

「朝からあんなことしといて、夜になったら別の女と二人で飲みに行くんだもん」

「ああ……」

「何だか腹が立っちゃって。そしたら酔いも冷めちゃって。一人で帰るのも癪だったのよ」

投げやりに言いつけると丸山くんがバツの悪そうな顔をした。

「散々その気にさせといて、飲み会の後から冷たくされちゃうし。私がどれだけ泣いたか知らないでしょ?」

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