無口な彼が残業する理由 新装版
そのまま見上げていると、ゆっくり視線がこちらにやってくる。
何と言っていいかもわからず黙っていると、
「行くよ」
と一言だけ。
どこに?
と聞きたくなったけれど、私はとりあえず
「うん」
とだけ応えて帰りの準備を進めた。
「なあ、神坂」
青木が小声で問いかける。
「俺、あいつに監視されてるみたいで怖いんだけど」
真剣な顔でそう言う彼が可愛らしく感じた。
「好きなんじゃない? あんたのこと」
私は冗談めかしてそう言って、
先に会社を出た丸山くんを追いかけることにした。