無口な彼が残業する理由 新装版
「帰る気力って、ははっ」
電話越しの声でイメージできる、
丸山くんの笑顔。
笑ってくれるだけで、こんなにも心がときめくのに。
私の気持ちなんて、きっと知らないんだ。
「だって、疲れちゃったんだもん。帰りの電車に乗るのも面倒なの」
リズミカルに響いていた足音が止まった。
静かなオフィスでは、そんな音の変化すらよくわかる。
「予定変更」
脈絡のない言葉のチョイスにハテナマークが浮かんだ。
「え?」
「今ならまだ間に合うから」
「は?」
「風呂入って、着替えて、そっち行くわ」
すごいよ、丸山くん。
「帰る気力、超湧いた!」
単純な私を、よくわかってる。