無口な彼が残業する理由 新装版
恥ずかしい気持ちと、だけど少しだけ嬉しい気持ちで新幹線に乗り込んだ。
青木に気を付けろと言うくらいなら、
初めから青木との旅行なんて許可しなければ良かったじゃないの。
なんて言えるわけもなく、
私はただ唖然として会社へ向かう丸山くんの背中を見送ったのだった。
「なー、神坂」
「何よ」
新幹線が走り出して、すぐ。
各営業先に渡す商談の資料と契約書を確認していると、
仕事には興味の無さそうな青木が間抜けな声で私を呼ぶ。
「丸山って、いつもあんななの?」
「あんなって?」
「人前でチューしたり」
そういえば、どうなんだろう。
付き合って間もないし仕事が立て込んでるから、
うちでイチャイチャするくらいで
まだ丸山くんと出掛けたことなんて一度もないし。
「さぁ? わかんない」
「わかんないって、付き合ってんだろ」
「付き合ってるけど、まだ謎が多いの。逆に聞きたいよ。丸山くんってどんな人なのか」