無口な彼が残業する理由 新装版



貸し切り状態の女風呂。

贅沢に脚を伸ばしてゆったり湯に浸かり、

ぼんやり上を見上げてみる。

別にここは露天風呂ではない。

見上げても、湯気で湿った天井が見えるだけだった。

考えても考えても、やっぱり私には青木の意味していることがわからなかった。

湯に腕を滑らせ胸元を撫でてみる。

青木のキスが流れて行くような気がしたけれど、

丸山くんの跡は消えることはない。

封印しようとしている気持ちが、

まだ消えたくないともがきだす。

恋に落ちるのは一瞬のことなのに、

落ちてしまってはなかなか抜け出せない。

なんて後味の悪い感情なんだ、

めんどくさい。

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