無口な彼が残業する理由 新装版
のぼせる直前まで湯に浸かって、
心地よい気だるさと部屋から持ってきた浴衣を身に纏った。
自販機でスポーツドリンクを買って、
一気に半分くらい飲み干して。
この民宿自慢の石庭に立ち寄り、
縁側に腰を下ろした。
「何やってんだろう、私」
呟いても誰も答えてはくれない。
私の重いため息は美しい庭園に浄化されていった。
青木は結局私を抱かなかった。
前にもこんなことがあった気がする。
丸山くんが看病してくれた朝だ。
そこに何か考えがあったとしても、
力づくで全て奪ってくれたらよかったのに。
ううん、思い上がっちゃダメだ。
私にはそれほどの色気がない。