無口な彼が残業する理由 新装版
風がそよそよと吹いて、
まだ乾いていない私の前髪を揺らした。
初夏というには少し早いかもしれないが、
梅雨前の生暖かい風は優しかった。
これで良かったんだ。
全て丸く収まるんだ。
胸に残る丸山くんの跡が消えたら、
私は青木のものになる。
丸山くんへの気持ちは、この石庭に置いていってしまおう。
きっと浄化してくれる。
「神坂?」
左から声がした。
浴衣姿の青木だ。
「遅いと思ったら、ここにいたのか」
「女の風呂は長いのよ」
そう返すと、微かに笑った声がした。
なんだか、静かだ。
青木といるのに不思議な感じ。