無口な彼が残業する理由 新装版

「ほんとみんなヘタレだな。お前も、丸山も、俺も」

静かだった庭園がざわつき出す。

いや、違うか。

青木がそんな雰囲気にしているだけだ。

「あんたもヘタレなんじゃない」

「ホントだよ。さっさとヤッちまえばいいのにさー」

「そんな風に言わないでよ」

「けどまぁ、チューできたから良しとするか」

こんな調子だけど、青木は本当は

めちゃくちゃ優しい奴なんだな。

「お前、今のまま俺と付き合っても後悔するよ。絶対に」

優しすぎて、他人のことばかり優先して、結果的に自分が損をしてしまうようなタイプなんだ。

「後悔されて虚しくなるのは俺なんだっつーの」

「なによ、ヘタレ」

今は饒舌に言い返せるほど自由に口が開かない。

青木と付き合っても丸山くんに嫉妬の視線を向ける自分が

容易に想像できたからだ。

「お前がうちの部署に異動してきて、一年ちょいか」

「そうだよ」

あの当時は、一年後自分がこんなことになっているとは想像もしていなかった。



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