無口な彼が残業する理由 新装版

「最初は女のくせによく働くなーとしか思ってなかったけど」

「あんたがサボりすぎなのよ」

「うるせーよ。でも、どんなにキツくても泣き言ひとつ言わないお前を、いつの間にか好きになってた」

……青木……。

私、そんなに強い女に見えてたんだ。

「それなのに、丸山のことになると……バカみたいに一喜一憂してさ。上司にも刃向かうお前が、逃げ出して。こんなとこでたそがれて、泣き出して」

カッコ悪いよね、ほんと。

ごめんね、青木にまでこんな姿見せちゃって。

「俺の好きな神坂理沙は、こんなヘタレた女じゃねぇっつーの」

あぁ、私、ほんと情けない。

青木にまで、呆れられちゃった。

「俺の一年分の恋心を返せよ、バカ」

そう言って、青木はまた笑った。

笑って私の背中をバシッと叩いた。

バカにしているようでも、勇気づけてくれてくれているようでもある。

この一年間、私はどれだけ青木の憎まれ口に救われてきたんだろう。




「俺は6年だ」




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