無口な彼が残業する理由 新装版
丸山くんは驚いた顔をした。
「神坂さんこそ、覚えてたの?」
……さっきは名前で呼んでくれたのに。
少しだけ残念な気持ちになった。
「覚えてたよ。丸山くんだって気付いたのはつい最近だけどね」
プレゼンでハキハキ話をした丸山くんの声。
普段の静かな声とは声質が違うから、
その時まで気付けなかった。
「俺、あの集団面接の時から、ずっと神坂さんのこと追いかけてた」
嘘よ、そんなの。
同期会で話をしたときも、
そんなこと言ってなかったじゃない。
「他にも何社か内定もらったけど、神坂さんも絶対に受かったと思って、この会社を選んだ」
「どうして……」
「こんな人と仕事したいって、思ったから」
今なら運命を信じられる気がする。
6年前、私が思ったのと同じことを
丸山くんも思ってくれてたんだ――。