無口な彼が残業する理由 新装版

「それなのにこの人、寛容なふりして青木先輩との旅行を許可したり、余裕ぶって理沙先輩に素っ気なく振る舞うから」

確かに、素っ気なかった。

それで私が拗ねて、たんこぶ作って。

「そのくせ様子が変だって、何か怒ってるっぽいってうじうじ悩んでるから」

……悩んでたの?

ていうか、私が怒ってることに気付いてたの?

「じれったくなっちゃって、私が朝から無理矢理連れてきたんです」

それって、つまり。

愛華ちゃんは丸山くんのことを好きで付いてきたわけじゃなくて、

私とのことを応援するために……?

「清水寺で張り込んどけばきっと会えるからって、何時間もあそこにいたんですよ」

私はそっぽを向いている丸山くんの顔を無理矢理こちらに向けた。

「……本当?」

丸山くんは、力なく頷いた。


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