無口な彼が残業する理由 新装版

「丸山くん、まだいたんだ」

机に頭をのせた状態で話しかけると、

「うん」

と短く返ってきた。

丸山くんが立ち上がった音がした。

足音はゆっくりこちらに近づいて、

横の席に座ったのが見えた。

キャスターを転がしてこちらに寄ってくる。

大きな手が私に触れると、胸の奥から愛情が溢れ出してくる。

「おいで」

優しい声で、誘われる。

それだけで体が軽くなるから不思議だ。

伸ばされた腕に吸い込まれるように飛びつくと、

涼しい香りにぎゅっと体を包み込まれた。

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